GWAでは、2015年より毎月2回、照田家住宅のお掃除をして保全しています。照田家は、メリヤス産業を営む照田一二三氏によって戦後自邸として建築され、「造形の規範となっているもの」の評価基準を理由に、2008年より主屋部分が国の登録有形文化財(建造物)となりました。
本コラムでは、その歴史的な価値や秀でた造形の他、お掃除を通して感じた明媚な佇まいに注目して紹介してゆきたいと思います。
第2回
照田家住宅の細部意匠:「欄間」について
文・写真/森田 歩
今回は照田家住宅の細部意匠の一つ、「欄間」について見ていきます。
そもそも欄間という部材をご存知でしょうか? 現代では欄間のある家も少なくなっていると思います。
欄間とは、下の写真のように鴨居や天井の間にある開口部を一般的に指します。欄間は住宅建築のみならず、社寺建築などでも見られ、歴史的に見ると平安時代にはその祖型なるものがあったとも言われています。採光や通風などの機能的側面もありますが、一般的には格子や透彫などが施され、装飾的、意匠的な側面も有する部材です。
写真1:欄間の位置(照田家住宅二階)
欄間の意匠は多様多種ありますが、実際に照田家住宅の欄間を見ていきましょう。
まず二階から見ていきます。
写真2:二階、畳部の境にある欄間
二階の欄間は筬欄間(おさらんま)と呼ばれる縦に細い桟が入ったものに、中央部に桐の板を嵌め込み、扇型をくり抜いて、松竹梅を透彫にしたものとなっています。非常に繊細な造形となっており、当時の職人達の技術力を窺い知ることができます。
続いて一階部分を見ていきます。
写真3:一階、居間と茶の間の境にある欄間
一階の居間と茶の間の境にある欄間はいずれも「近江八景」を題材として、透彫としています。近江八景とは、江戸時代頃に中国の蕭蕭八景にならって選ばれたとされる、琵琶湖周辺の八つの風景です。屏風絵や陶磁器などの絵柄にもよく用いられ、歌川広重をはじめ浮世絵の題材としても描かれることが多い題材です。その近江八景が非常に繊細かつ立体的に彫られており、訪れた人を魅了します。
写真4:一階、女中部屋境にある欄間
続いて一階の女中部屋境にある欄間です。こちらは今までとは一風変わって「朽木」をそのまま用いて、欄間としています。女中部屋ということで他の部屋に比較すると簡易なものとなっていますが、それでも自然の優美さを感じるものとなっています。
写真5:玄関にある欄間
玄関にも欄間があり、こちらはガラス入り筬欄間となっています。そして、その中央部には照田家の家紋である「丸に蔓柏」の彫刻がはめ込まれています。
またこれまで紹介したのがいわゆる彫刻欄間と呼ばれるものですが、他にも以下に紹介するような「障子欄間」というのもあります。彫刻欄間と違って障子欄間は障子が貼ってあることにより、外部から柔らかい光を取り込むことができ、縁側との境界などで用いられることが多いです。
写真6:二階障子欄間
こちらは二階の畳部から入側縁との境にある障子欄間です。先ほどまでの彫刻欄間とは違い、格子を用いた幾何学的な模様を有しています。この格子の組み方は「破れ井桁」と呼ばれるものとなっています。
写真7:一階障子欄間
一階の障子欄間も二階同様に畳部から縁側との境に設けられています。こちらの格子の組み方は「霞組(かすみぐみ)」と呼ばれる組み方の変形とされており、シンプルかつ洗練された意匠となっています。
さて、今回は照田家住宅の欄間を取り上げました。その多様多種かつ優雅な意匠からは、当時の職人達の技術力の高さやこだわりを、時代を超えて窺い知ることができたのではないでしょうか。
次回も引き続き、細部意匠を取り上げていきたいと思います。ぜひお楽しみに!
参考文献
*近藤豊『古建築の細部意匠』大河出版,1972
*太田博太郎「らんま【欄間】」『国史大辞典』,JapanKnowledge
(https://japanknowledge.com,2021/09/04閲覧)
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